認知症は日本では身近な病気で、4人に1人は認知症患者かその予備軍といわれています。
誰が認知症になってもおかしくありませんし、親や身内が認知症になり介護をする立場になる可能性があります。
みなさんは認知症を知っていますか?
こんなに身近な病気なのに、
聞いたことある、物忘れとかになるやつでしょ、とか
よくニュースで事故してるやつね、
みたいな感じの認識でしょうか?
今回は、認知症の症状である「中核症状」と「周辺症状(行動・心理症状/BPSD)について解説していきます。
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目次
認知症の症状を大きく分けると2つ
認知症は、認知症ならだれでも出現しうる「中核症状」と、環境や性格が強く影響して出現する「周辺症状(行動・心理症状/BPSD)」があります。
疾患等が原因で脳が変化したり脳の細胞が破壊されて、脳のその部分が担っている機能が失われて出現する症状を「中核症状」といいます。
一方、中核症状やその人の性格、環境によって引き起こされる症状を「周辺症状」や「行動・心理症状」といいます。
BPSDは略語でBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaといいます。
周辺症状と行動・心理症状とBPSDは同じ意味で使われます。
この記事では、周辺症状で統一させていただきます。
中核症状と周辺症状の関係
下の図を見ていただくとイメージがしやすいです。
「中核症状」は認知症の方ならだれにでも出現する可能性がある症状です。
脳が機能を失っている状態ですので、ケアではどうすることもできません。
その中核症状とその人の性格や環境が「理由」で出現する症状が「周辺症状」になりますので、ケアで抑えることが可能です。
たとえば、認知症の中核症状が原因で、以前できていたことができなくなってきた状態として。
どういった受け止め方をするか、は人それぞれです。
失敗やミスを気にしない人、深く落ち込む人、自分を追い込むような人といろいろな人がいます。
性格によって「できなくなってきたこと」が「不安」や「焦り」「怒り」に変わります。
その感情を表現する方法が周辺症状であるといえます。
周辺症状には「理由」があり、理由を知り適切にケアすることが認知症ケアであるといえます。
逆に適切にケアができないと、中核症状により生まれた感情がより強くなり変化し、より強い周辺症状となり出現します。
つまり、認知症ケアは中核症状と周辺症状を理解することといえます。
中核症状とは
以下のような症状が現れます。
ポイント
記憶障害
見当識障害
理解・判断力の障害
実行機能障害
失語
失認
失行
では、一つずつ解説していきましょう。
記憶障害
認知症初期のころからみられる症状です。
特に短期記憶において顕著にみられ、進行に伴い長期記憶が失われていきます。
記憶を溜めておくコップに水(記憶)があるとイメージしてください。
そのコップは人の成長と共に大きくなり、入る量も多くなります。
認知症になると、コップの成長は止まり注がれる水(記憶)はこぼれ落ちてしまいます。(短期記憶の喪失)
さらに、コップは上の方から崩壊していき、古い水(記憶)もどんどんこぼれていきます。(長期記憶の喪失)
物忘れとの違いは、朝食を食べた後に
朝食は何を食べたっけ?←物忘れ
朝食を食べていない!←認知症
エピソードの詳細を覚えていないのは物忘れ、エピソード自体を忘れるのが認知症の特徴です。
見当識障害
自分の置かれている状況を正しく理解する能力です。
日時や時間→場所→人物の順にがわからなくなります。
まずは日時や時間がわからなくなります。
遅刻が増えたり、ごみの日を忘れはじめれば注意が必要です。
季節に合わない服を着ることも見当識障害が影響しているといわれています。
続いて場所がわからなくなってきます。
いつも通っている道や場所がわからなくなり道に迷うことが多くなります。
最後に人物がわからなくなります。
身近な人はもちろん、子供の顔までわからなくなっていきます。
理解・判断力の障害
物事の理解に時間が掛かるようになる、一度に複数のことをいわれると理解が難しくなる症状です。
いつもと違うことへの対応が難しくなります。
また、あいまいな表現は理解が難しくなります。
今日は寒くなるから気をつけてね。→上着を着て風邪をひかないようにしてね
具体的で簡単な表現を心掛けましょう。
実行機能障害(遂行機能障害)
物事を、計画を立てて実行することが難しくなります。
例えば、ご飯を作ること。
メニューを決めて、家にある食材の確認、買い物に行く、食材を選ぶというような一連の行動を効率的に計画を立ててできなくなります。
また、予測していない事や新しいことに他の手段を考えて適切に対処できなくなります。
事故で普段の道が通れないとどうすればいいのかわからなくなる、デイサービスを利用するように新しいことをはじめるとなにをしていいのかわからなくなる、といった感じです。
失語
失語には、運動性失語と感覚性失語があります。
運動性失語(ブローカ失語)
話は理解できるが言葉が出にくくなる・文字を書くのが難しくなる症状です。
聞き取りにくいため、何度も聞き返されたり、思うように話せない苛立ちから話すのが嫌になる人もいます。
感覚性失語(ウェルニッケ失語)
言葉は出るが、相手の話や文字を理解することが難しくなる症状です。
相手の言っていることがわかりません。短い言葉や簡単な表現、はい・いいえでこたえられるような聞き方にするように心がけましょう。
失認
身体に問題がない状態でも、五感による認識を正常に把握することが難しくなる症状です。
身体は感覚として感じていても、その意味が理解できない状態です。
触られていてもどこを触られているのかわからない、目で見て認識できないが触ったり、音を聞いて認識できるなど。
また、身体の半分の空間が認識できない半側空間無視の症状も失認の一つです。
半分の空間が認識できないので、ご飯を半分残したり無視側を壁やドアにぶつけるといったことが起こります。
失行
身体的に問題ない状態で行動する意思もあるが、動作が行えなくなる症状です。
はしやハサミの使い方がわからない、手は洗えるが「手を洗う」という指示が入らない。といった具合です。
周辺症状とは
記事で何度か書いている通り、中核症状がもとになって行動や心理症状として出現する症状です。
その人の性格や環境によって出現するので、個人差があります。
不安・抑うつ
認知症になりいろいろなことができなくなったり、不安が増えることから気分が落ち込むことが増えてきます。
意欲の低下から、食欲の低下や不眠、物事に興味を示さなくなることからうつ病と診断されること、併発することもあります。
今までの趣味や外出をしなくなり、家に閉じこもりがちになることは認知症の周辺症状です。
介護者は不安をあおるような言動は避け、安心できるように努めることが重要です。
徘徊
記憶障害と見当識障害の影響や不安やストレスなどが重なると「徘徊」という周辺症状が出現することがあります。
徘徊とは、本人は目的があり歩いていますが、周りから見れば訳も分からず歩き回っているように見えることもあります。
徘徊の対応方法ですが、「理由」を聞き、本人の感情に向き合うことが重要になります。
本人は、目的があり歩き回っています。
なにかとこちらの理由をつけて、無理にやめさせることはその場限りに有効なだけで、根本的解決になりません。またすぐ歩き出すでしょう。
介護者の焦りは伝わるので、こちらも落ち着いて声をかけ一緒にあるくこと、できるなら「理由」の解決やさりげなく気をそらすことが有効です。
物とられ妄想
よくある症状です。
認知症になるとモノをどこにしまったかを忘れてしまいます。
自分が閉まった記憶がないため、「盗まれた」となります。
言われた側は、身に覚えもなく腹立たしく感じることもあるでしょう。
が、自分がなくしたかもしれない、といった不安や自信の喪失も原因になるといわれています。
本人の話をよく聞き、一緒に探すなどの親身になることが重要です。
よくなくすものや貴重品はしまう場所を決めて、目印をつけるなど本人がわかるようにする。
本人が見つけだせるように、いらないモノをあまり置かずに環境を整備することもポイントです。
暴言・暴力
認知症が進行していくと思っていることを表現することが難しくなっていきます。
また、脳の機能が低下し感情を抑えることができなくなります。
こういった不安や不満、苛立ちが溢れた時に、理性が効かずに暴力・暴言となり出現します。
本人の気持ちを理解し、なにを表現したいのかを理解することが重要です。
暴力・暴言には予兆があることが多いです。
イライラしている、落ち着きがない、表情を見逃さず、声掛けを行うことで落ち着いてもらうようにします。
せん妄
せん妄とは、簡単に言うと混乱している状態です。
特徴として、様々な要因が重なり合い出現するので原因を特定しにくいです。
体調不良や睡眠不足、環境の変化、薬の副作用などで意識障害が起こり、精神状態が不安定になります。
暴れたり、幻覚を見る、時間や場所がわからなくなるなど介護する側にとって大変な状態になってしまいます。
予防には規則正しい生活で、脱水や便秘を起こさないこと、日中に活動し昼夜逆転を防ぐことです。
幻覚
幻覚とは、実際にないものが見える幻視、聞こえないモノが聞こえる幻聴が主ですが、幻味、幻臭などがあります。
レビー小体型認知症の特徴で幻視があります。
アルツハイマー型認知症は幻聴が現れることがあります。
本人には見えている症状のため、否定して不安を煽ることのないように心がけましょう。
幻覚の出現している場所に行き、一緒に確認する(今は見えない、聞こえないこと)ことで安心してもらうことも1つの方法です。
介護拒否
介護を嫌がることです。
嫌がるには理由があるはずです。認知症による機能の低下から、羞恥心や自尊心からなどさまざまな角度で考えましょう。
介護施設でよくあるのが、声掛け(説明と同意)の不足です。
認知症の方は状況の把握が難しくなっています。
介護者側がお風呂に誘導すること1つでも、いきなり連れてこられて服を脱がされる。と感じていたらどうでしょう。
皆さんも介護を拒否するでしょう。
介護拒否は介護方法を見つめなおすサインです。チャンスと思って考えましょう。
弄弁
認知症の方が便をいじる、壁や体に擦り付ける行為です。
便に対する認識がなくなること、失禁したことの不快感が重なって起こります。
起きた時は介護者としてかなりきついですが、適切な対応と予防を考えましょう。
排泄は生理現象です。介護者が疲弊しないように注意してください。
帰宅願望
家に帰りたいと出て行ってしまう症状です。
現在の家に帰りたいことはもちろん、人によっては生まれ育った家に帰りたい、と訴える人もいます。
帰りたいというのはサインです。
落ち着かない、寂しい、かまってほしいから安心する場所(自宅)に帰りたいとなります。
本人の気持ちになって、いまなにを求めているかを考えましょう
睡眠障害
認知症になると睡眠のリズムが崩れやすくなります。
夜間にしっかりと眠れずに、昼夜逆転、不眠といったことが起こります。
日中にフラフラしていることが多くなり、転倒などの事故にもつながります。
夜間に眠れる環境、リラックスする、足を温めるなどして眠気を誘う。
起きるときに日光を浴びて体にリズムを思い出してもらう。ような工夫が有効です。
異食
食べ物でないモノを口に入れてしまうことを異食といいます。
認知症が進み、食べ物かどうかの判断がつかなくなることで起こります。また、ストレスや不安からも出現するともいわれています。
なんでも口に入れてしまう危険性があるため、手の届く範囲になるべく物を置かない、
命の危険があるたばこや洗剤、電池といったものは特に注意が必要です。
周辺症状にはまだまだ種類があります。
今回は代表的な症状をご紹介しましたが、周辺症状すべてに言えることは、
ポイント
周辺症状は、認知症の方からの声にならないメッセージであること
言いたいことや気持ちの表現が難しくなり、行動や精神状態に表れるものです。
イライラしたり、腹が立ったり、焦ることもあると思いますが、相手の気持ち(認知症の方の)になって周辺症状を考えることで解決の糸口がみつかります。
それには、ご利用者の性格や生活歴、価値観など、どれだけご利用者を知っているかが重要になります。
人生の最期をできるだけ穏やかに過ごしてもらうために、介護者ができることはたくさんあります。
まとめ
いかがだったでしょうか?
認知症の中核症状と周辺症状について書きました。
他のサイトでもたくさん紹介されていますので、たくさん調べてください。
認知症を知ることは介護職の専門性を高めることです。
介護職にしかできないケアを目指しましょう。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございます。
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